last updated 1997/06/15
第31話(全130話)
マリイアの童話
9 マリイアの童話
ロッコという生き物は全身が長い毛で覆われています。
ちいさくて真ん丸で、ちょうど猫が戯れて遊ぶ毛糸玉みたいです。
そして本当の毛糸玉と同じように、ロッコには赤いのや青いのや黄色いのや、色とりどりの
仲間たちがいます。
ロッコはせっせと働いています。
エルモの森でいちばんの働き者です。
ロッコたちは七匹から八匹のグループに分かれて森を動き回り、鉄とか胴とか金とか、ある
いはそれらを含んだ石だとかを捜しています。
そして、そういうものをみつけると、それを口から吐き出した糸でくるんで、せっせと村ま
で運んで行きます。
どんなに大きなものでも、たった八匹で運んでしまいます。とっても器用なんです。体をそ
の金属の下に潜り込ませ、みんなで一緒にコロコロ転がるのです。ロッコたちは声を持って
いません。それぞれが、それぞれと心で直接お話をしています。
ロッコたちの巣はロッコ・ヴィレッジと呼ばれています。
本当にそれは巣というより、ひとつのちいさな村のようです。
だって建物がたくさん建っているんですもの。
どれもみな金属でできています。
そう、ロッコたちは森中から金属を集めてきては、それを材料にして家を建てているんです
ね。金属性の家ですから、とても丈夫で、中には見上げるほど大きなビルディングのような
ものまで、せっせ、せっせと作っています。
ロッコたちはほとんど眠りません。
朝も昼も夜も、せっせと金属を集め、せっせと家を建て続けるのです。本当に働き者です。
何日も、何か月もかけて、ロッコたちはやがて、それは立派な村を完成させます。森の中の
広場に、何ともヘンテコな恰好の、でもとても可愛らしい村が出来上がります。
すべて出来上がると、ロッコたちは村の中央に集まって、完成したピカピカの村を見回して
、しあわせそうな顔をします。
涙をハラハラとこぼして喜ぶロッコもいます。
そしてひとしきり、みんなで
立派な村が出来上がって良かったね。
嬉しいね。
とうなずき合うと、いきなりダッと駆け出して(転がり出して)ビルや家や劇場みたいに見
える建物たちをバリバリと食べはじめるんです。
そう、せっかく作ったのに、出来上がると今度はそれを全部食べちゃうんです。
ロッコという生き物の、それが習性なんですね。
学者の先生なら
「建造と破壊とを定期的に繰り返すロッコたちこそ、文明と言うものの的確なカリカチュアで
ある」
なんて、むずかしいことを言うかもしれませんね。
けどロッコたちはそういうむずかしいことなんて考えていません。
ロッコたちは作り、完成させ、そして食べる、ということを一所懸命に精一杯繰り返し続け
るだけです。
美しくて可愛らしい村は、美しければ美しいほど、可愛らしければ可愛らしいほど、とても
おいしいのですよ。
と、一匹のロッコがこっそり教えてくれました。
そしてロッコたちは何か月もかけて村を全部食べ尽くしてしまいます。建物がなくなってし
まうと、ロッコたちはまた広場の中央に集まり、いっせいにハラハラと涙をこぼします。
おいしかったね。
楽しかったね。
しあわせだったね。
そう言って、それからまた森に向かってコロコロ転がりはじめます。
今度はもっともっと美しい村を作ろうねって、それぞれに語り合いながら。
ロッコたちはそうやって暮らしています。
ロッコたちはエルモの森でいちばんの働き者です。
そしてもしかしたら
エルモの森でいちばんしあわせな生き物です。
(つづく)
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